逃避行

 

3月20日(土)


 朝9時半、ガソリンは1/4しかなかったが、ハナと私たち二人を乗せたジムニーと甥達の車2台で栃木県の那須塩原温泉へ向かった。常磐自動車道、湯本ICから磐越道を抜け郡山に入ったあたりから、天候も急変・晴れ・曇り・雨、日射しが異常なほど熱くガラス越しからも異常なエネルギーを肌で感じた。それと一緒に、またうがい薬のような異臭も激しく、犬のハナも後部座席でくるくる回り騒ぎ出し、今までに見たことのない異常な行動をしている。私達も息苦しくなり、手ぬぐいを鼻にあてながらハンドルを握ってやり過ごした。東北道に入ると、ようやく異臭が消えたので、ガソリンを入れて塩原温泉へ向った。宿は山頂付近で道の周りにはまだ、雪が残っていた。


 夕食前に甥と初めて一緒に温泉に入りゆったりと、のんびりとお湯につかり豪華な食事に満足なひと時を・・・。夜8時頃またも激しいい異臭が襲ってきた。みんなは、周囲は温泉なので硫黄の臭いじゃないの?というが、かみさんも温泉宿の入口ドアが開くと同時に異臭が、同じタイミングで感じとれた。せっかくの楽しい温泉旅行のはずだったが、我慢ができずに私たちとハナを連れて、あわただしく宿を出た。突然の行動に実家のみんなもビックリしたと思うが耐えられなかった。山を下って那須塩原ICをめざしたが完全閉鎖状態で通れない。マスクをしていても臭いは激しく、空は真っ黒い雲に覆われていた。一刻もはやくこの場からのがれなければと、塩原ICの管理事務所に問い合わせたると、ひとつ南の矢板ICなら大丈夫かもしれない、と言うのですぐに向かった。不気味な真っ黒い雲の下、私たちはマスクに帽子、車はカーナビもラジオも無いので道路標識だけがたよりだった。


 矢板IC入口には、パトカー数台と警察官。「避難のための緊急車両」として通してもらった。東北道は、閉鎖状態だったので車はほとんど走っていない。対向車線からは自衛隊の車両と消防車がすれ違う。


東北道から北関東道に入り栃木・群馬でも異臭は消えなかった。上信越道から長野道あたりから薄くなり、松本に入るとまったく臭わなくなった。途中ガソリンを入れようとしても、5リッター限定・10リッター限定とギリギリの走行・・・高速道を降りてしまったら、一般道ではガソリンを入れることも困難だったと思う。ただ臭いから逃れるためにあてもなく、南へ南へと走っていたが、ようやく、臭いも感じなくなった松本に着いてひと安心・サービスエリアにて休憩と車を止めた。しかし、今度は地面からの微動で常に揺れていた。そこで、「沖縄へ向かう」という腹が固まった。味も感じない食事をあわただしく取りながら、また南へ南へ。


 広島に住む知り合いの金属工芸家と連絡を取り、車で沖縄へ渡る方法を尋ねて、3/22の夕方出港・鹿児島からのフェリーの予約を取ってもらった。そしてひたすら鹿児島に向けて、中央道―東名道―中国道―山陽道―九州道とジムニーを走らせた。一般道には一度も下りない高速道だけの旅。そして22日昼前に鹿児島港に着いた。20日の朝にいわきを出発、夜8時に那須塩原温泉の宿を出てから、約1500km、40時間を費やしての異臭からの逃避行だった。


by
関連記事