生きるチカラ

 

3月16日(水)


 黒雲、突風、余震、突然襲ってくる異臭との戦いに備えて、今日は朝からギャラリー内の完全密閉作戦開始。入口ドアの隙間にガムテープをはったり、換気扇の吐き出し口を塞いだり、仕切のカーテンをつけたり、今できる事・やれる事をがむしゃらに行い、限られた空間の中で体を動かした。


 手を洗う、食器を洗う、水も出ない中「外出したら服を着替えてうがいをしてシャワーを浴びて下さい」とラジオから聞こえてくる。水が出ない・水が無い、人間の体は70%ほどが水分であり、水は生命そのもの。その水が無い。



 夕食後、また、昨日の異臭が襲ってきた。呼吸をすると肺が熱くなり、息苦しい・うがい薬のヨードチンキの臭いに息が詰まる。ガーゼに水を含ませて、口と鼻にあてると少しは呼吸が楽になる。ガーゼを交換しながら、どの位時間が経ったのか?はじめて死を意識した。二十歳の頃に、仕出し屋さんの弁当を食べて法定伝染病赤痢となり内郷の隔離病棟へ
10日間ほど入院以来の衝撃的な出来事。絶対に生きたい、生きたい一心で必死に戦った。


 ギャラリーの床は大切な水でぬれ拡がり、あの異臭は消えていた。生きると思う気持ちが強ければ強いほど生かされた。そのエネルギーや意思をふるいたたせてくれた、創芸工房ありがとう、作家の皆さんありがとう、絵画に、彫刻に、器に、アフリカの布にありがとう、と大きな声で叫ぶ・腹の底からあふれでる涙を流しながら生きていることに感謝した。夢か?現実か?そんな事を思いながら、うとうと眠る・・・。


また、異臭だ。床に正座・水を含ませたタオルを交換しながら、自分がどれだけ生きたいのか、自分との戦い・限界ギリギリ必死の戦いだ。またまた異臭だ。夜中に3回も襲う。・・・
 これって現実?何か修業をしているような感じで、かみさんの顔が観音様のように見えたり、犬のハナが水先案内人に思えてきた。幻想と現実の不思議な感覚。遠い世界から薄っすらと夜が明け始めた。鼻はガーゼやタオルを何度も交換したために摩擦で皮がむけ火傷状態、どれほどの時間、床に正座していたのか、左足の膝には血がにじんでいた。今でも傷が残り、体に刻まれた「生きる証」がある。


 まぶしい朝日にほっとしたのか、急に寒さが体に伝わった。周りを見渡せば、服も布団も床もすべてずぶぬれで、その手が震えている。大切な水は自宅の風呂場からも、全て無くなってしまった。


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