福島民報新聞・サロン集 「ハナ」と「P」   

2006年2月1日(水曜日) 掲載

「ハナ」と「P」

わたしの家は、小学校のプールとギャラリーとの間にあり、目の前には、やや広い空き地がある。玄関にはメスの犬「ハナ」と2Fのベレンダには、オスのチャボ「P」がいる。
犬のハナは、河川敷で段ボールに入った4匹の、生まれてまもない捨て犬のうちの一匹だった。真っ白い毛とブルーの瞳の愛くるしい子犬は、無条件でかわいい。それからハナとの共同生活が始った。雨の日も、風の日も散歩をする。カミさんはダイエットのために、わたしは基礎体力をつけるため、ハナは排せつのため、それぞれの目的で歩き走る。
犬も人間と同じように、不思議なときには首をかしげ、夢も見るし、イビキもかくし、オナラもする。水が嫌いなハナはカミさんの「お風呂」という声に逃げ回る。そんな行動のどれもが、ほほえましく毎日がより楽しく、潤いが生まれてくる。
チャボは5年前、つがいでわたしの家にやって来た。次の朝にはこれからお世話になります、とでも言ってるみたいに、ちっちゃな卵が一つ置いてあった。こちらこそと、早速、朝食にちっちゃな目玉焼としていただきました。
雌鳥は、卵が増えると温め始め、何日か過ぎたころには、卵の内部からコツコツと音が聞こえてくる。自分のくちばしで、必死に生きようと戦っている。生と死は、ごく当たり前のように同居し、自然の厳さは、ちっちゃな卵からでも感じられた。
二羽のチャボは一年も過ぎた頃には十一羽となり、鳥小屋の扉は開放状態になっていた。チャボたちは、窓を開ける音や洗濯物の揺れで右に左にと集団で移動し、日が暮れる頃には、全員が鳥小屋に戻り、重なり合いながら寝床につく。
冬の木枯らしの吹くころだった。突然チャボの鳴き声と羽ばたく音。すぐに2Fへ行って見渡せば、ベランダを乗り越え、一羽はギャラリーの屋根へ、二羽は空き地に、一羽は学校のプールに。カミさんと一緒に、エサと網を持ち玄関を出る。すぐに一羽を捕まえ、小学校のプールに向い、ずぶぬれのチャボを取り上げる。チャボはもう、冷たくて硬くなっていた。そのまま、土に返すのもかわいそうだと思い、冷たい体をドライヤーで乾かす。フワフワの羽になったときに、かすかな鳴き声とわずかに動く足のつめが、わたしの手の中で感じられた。やがて目を開け、足を動かし翼を広げた。
ちょっとした思いが、ささいな行動がチャボの命を救ったのだ。バーチャルリアリティー(仮想現実)ではない、リセットのきかない現実の世界である。人間も動物も植物も共に生き、喜びや楽しさ、豊かさを実感し、失った時の悲しさも体感する。鳥小屋の扉を開放しなければ、ふ化させなければと思いつつ、今は、一羽だけになったチャボも、捨て犬だったハナも精いっぱいの長生きを願っている。
アマノジャクのわたしも、何歳になっても命の尊さ、命の大切さを感じたい。なぜ生きるのか、どう生きるのかは、はっきり見えないが、絵やモノを創(つく)ることが好きで一日のうちわずかな時間でも、絵とにらめっこをしてる。描いては消して、消しては描く。泳げない子供のようにバタバタと手足を動かしても、ちっとも前には進みません。でも、あきらめずにまた、バタバタと・・・・・。
鈴 忠壽


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